肌を潤すシアバターの木は、母なるアフリカの過酷な環境の下に生育を許された、聖なる樹木のひとつです。シアバターは、ガーナの乾いた地でいきいきと暮らす女性たちによって、ほとんどすべての工程が手作業で作られています。生み出されるバターはおだやかな色と香り、まさに「バージンシアバター」と呼べる癒しのバターです。
サバンナのシアの木
14世紀、イスラムの旅行家イブン・バットゥータは、アフリカの旅で現地の人が愛用する木の実の脂に出会います。ガルティーと呼ばれたシアバターは、今と変わらぬ瓢箪のボウルに詰められ、重要な交易品としてサハラ砂漠を越え、遠い国へと運ばれました。
シアの学名のButyro spermum parkii の「Parkii」は、シアバターをヨーロッパに初めて紹介したスコットランドの探検家マンゴ・パークの名から命名されています。
彼がアフリカに渡った18世紀後半は、ヨーロッパのアフリカ研究が白熱した時代。
当時、ニジェール川流域の生活で広範囲に使われるシアバターの忠実な記録を著書「ニジェール探検行」に残しています。著の中でシアバターは「シア・トゥルゥ」と呼ばれ、「シア」の語源になったといわれます。
シアは、乾期(1~2月)になると、直径1~2cmのクリーム色の花が咲き、雨期(4~8月)に、約8cm大の卵型、プラムのような果実をつけます。最初の実がなるまで20年かかり、その後200年実るといいます。雨期の激しい雨に打たれて落ちる実は、多くの生物の食を満たします。味はこの世のものとは思えないほど美味で、天国の食物にたとえられます。果実の真ん中にある堅くつやつやした殻=外種皮に包まれた種子の中の仁に脂肪がたっぷり含まれます。果実は新鮮なうちに食され、残った種子を家庭にあるカゴに貯め、いっぱいになると仁を取り出す作業に。樹皮はコルクのように厚く、樹液は粘着剤として使われます。
Shea
[シア(別名カリテ)]Butyrospermum parkii
アカテツ科
常緑高木ですが、花が咲く前いったん葉を落とします。
樹高約7~25m。ガーナで自生するのは北部地域のみ。
美しい樹形はバオバブと並ぶサバンナのシンボルであり、シアが作る木陰は山羊たちの憩いの場にもなります。
ガーナでは、食用、薬用、化粧用として伝統的に使われてきました。
成分のほとんどをステアリン酸、オレイン酸が占めるため、酸化しにくく、ステアリン酸は人の皮脂にも含まれる成分なので、肌なじみが良くうるおいます。
シアバターの成分組成
- オレイン酸(不飽和脂肪酸) 38~50%
- ステアリン酸(飽和脂肪酸) 34~45%
- パルミチン酸(飽和脂肪酸) 3~9%
- リノール酸(不飽和脂肪酸) 5~8%
- アラキジン酸(飽和脂肪酸) 1~2%
- 微量成分2~11% (トリテルペンアルコール・カロチノイド・トコフェロール・アラントイン他)
シアの産地はガーナ北部ノーザン州。首都タマレは「シアのある所」という意味。10数名の女性と子供たち、その家族がひとつのグループになって暮らしています。灼熱の肌に、鮮やかな色の服と笑顔がよく似合います。
生まれたらすぐシアバターで全身をケアされるというガーナのどの赤ちゃんも、子供から大人までグループみんなに世話されながら育ちます。シアバター作りは女性の仕事。動かす手の速さと力強さはさすがアフリカ女性です。家庭で食用に使うバターはボール状に丸めて固められ、市場で売られます。
ガーナでは、NGOにより、地域の女性グループがシアナッツやシアバターを販売・加工するための支援活動が行われています。海外からの資金を集め機械を供給したり、作業所を作ったり、販売ルートの斡旋などを行っています。日本からもODA事業の一環として、こうした現地NGOへの支援が実施され、JETRO、JICAにより調査・指導のための専門家が派遣されています。
* NGO= Non Governmental Organization 非政府組織。平和人権の擁護、環境保護、援助などの分野で活動する非営利団体。
* ODA= Official Development Assistance 政府開発援助。政府資金で行われる発展途上国への無償援助、技術協力への出資。
女性グループが作るバージンシアバター
ガーナ北部では妊娠のお祝いや親愛のしるしとして、ボウルいっぱいのシアバターを贈る習慣があります。
料理、やけどや傷の手当て、スキンケアなど万能的に使われるバターは、家庭には欠かせないもの。
日用必需品としてだけでなく、ガーナ女性にとって、シアバターはそれ以上の深い意味を持つ心の宝物だと話してくれたのはNGO代表のアディサさん。出産後の母親のケア、赤ちゃんに、紫外線から守るために全身に塗るなど、女性にとっても無くてはならないものです。Women's Goldと呼ばれるのもそんな由縁かもしれません。
さらにはバターの生産が生活を支える収入源でもあり、「産業の少ない北部地域にとって、南部の金に匹敵する経済資源」と熱く語ってくれました。
バージンシアバターの生産工程
首都アクラから車で北上、赤い土ぼこりの道を時速100㎞の四輪駆動車で走り続けること約10時間、シアの自生するシアベルト地帯にたどり着きます。シアの実の収穫は忙しい農繁期。種子は加工して保存され、手の空く農閑期に女性たちはバターの生産にとりかかります。
シアバターのあるマーケット風景
アクワバ!(ようこそ)ガーナ!魅力いっぱいのみどころ
「アクワバ」には「お帰りなさい」の意味もあるそう。故郷に帰ったようにくつろいで、そんな思いが込められているように思います。見どころもたくさんありますが、何よりの魅力はガーナ人の気さくでフレンドリーな人柄。すぐ友達になってしまいます。
「ガーナ」の名は王の呼称のひとつで、「戦いの王」の意味があるといいます。1957年、イギリスから独立する際、8世紀に栄えたガーナ王国の名にちなみ、国名とされました。ガーナといえばチョコレート。その色がよく似合う国です。子供たちの制服の色にも使われています。
遠くアンデスから来たカカオの木、畑があるのは海岸に近いガーナ南部の熱帯地域ですが、北部に自生するシアと共通する点が多いのも不思議な偶然のような気がします。