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アロマブレンドラボラトリー エッセンシャルオイル

リンデンブロッサム

2020.04.28 TEXT by Keiichiro Tsuda (Perfumer)

生活の中で季語的な香りは2種類あると思います。
一つは「季節を知らせる香り」で、もう一つは「季節を感じさせる香り」です。
季節を"知らせる"香りは不意に香り、嗅覚を通して気付かせる印象にあるもの。
例えばスーパーに並び出した初々しい苺の香りや、散歩しているとどこからか香る金木犀の香りだったり。
景色がその季節に突入するより少し手前で感じるからか、若干ハッとさせられるものがあります。


一方"感じさせる"香りというのは、季節の真っ只中にいることを実感し噛みしめられるようなシーンで
起こります。何の妨げも受けない陽射しを浴びたビーチの砂の匂いだったり。蚊取り線香だったり。
冬の夜風に混じる電車とか工業団地、鉄塔のような少し機械的なものを想起させる硬質な匂いだったり。


例えば、春と夏の狭間を実感する味覚の例で出すと、鰻を食べた時の、口に広がるマリアージュ。
うなぎの脂と照りっとした甘ダレと香ばしい香り、山椒と木の芽の清涼感が少々。
ここまでは容易く想像していただけると思います。しかしここからの表現をネガティブに捉えないでいただきたいのですが、鰻の醍醐味はなんだろう、感じるか感じないかレベルで極微量の数ppmだけ「泥」の匂いが混じっています。
この本当、霞がかっていて感じるか感じないか程の泥の風味が、鰻の脂や木の芽、焼き目などの風味と共に口の中に広がった時、あの満たされる感じ。

その季節に一番活発な動植物を味覚として体感することで、緑々しい「初夏」の真っ只中にいることを実感させられるのです。

今回は鰻の紹介というわけではなく。
同じくこの燃ゆる緑の初夏を感じるフレグランス・アロマがあります。
それがリンデンブロッサム(Tilia cordata)。
春から夏にかけて、息づく花の香りにはローズやジャスミンなどが有名ですが、中でも黄緑色をした香りが特徴的なのがリンデンブロッサム。
菩提樹と聞くと幾分馴染みのある名前かもしれませんが、ヨーロッパでは古くからそこかしこに街路樹として植えられており、ハーブティーとしてもリンデンの葉と花が飲まれます。
私も南仏はアンティーブの街に行った際、険しい山道の途中にある小さな村の集落に立ち寄り、そこで初めて風に運ばれる生のリンデンの香りを知りました。
寒くも暑くもなく、陽の光が心地よく。風の色が少しだけペールグリーンになる昼下がり。
村全体を包む気持ちの良い香りは、長閑な風景を初夏の季節色にペイントしていました。

フローラルの香りでも爽やかなため、ユニセックスな香りとして香水にもよく使われます。
都会的なイメージというよりどこか長閑で親しみやすい花の香りで、攻めるようなお色気フローラルではなく、マイルドなグリーン要素が特徴的なため、他素材とブレンドするときも爽やかものとの組み合わせが良いです。


生活の木 メディカルハーブガーデン薬香草園のヒーリングの丘にもリンデンの木があります。
気持ちよく晴れた昼下がり、リンデンの木陰にいると、上から黄緑色の香りが落下してくるはず。
皆さんもぜひ体感してみてください。


移りゆく狭間の季節は一瞬です。


◆リンデンの黄金比率ブレンド
・レモン:3
・リンデンブロッサムAbs.:2
・ジャスミンサンバックAbs.:1

3種類だけで十分リッチな香水のような香りになります。
上記の割合でブレンドし、スプレー、香油、ブレンド精油などの香り付けをしてみてください。
※精油の配合率はそれぞれの手作り品に合わせてください。



ちなみにハーブティーだったら、リンデンリーフとレモンバーベナに、カモマイルローマンとほんの少しのエリカ。この組み合わせが私は大好きです。

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