秋の訪れを静かに知らせてくれるキンモクセイの花。その香りの魅力を探りに中国桂林を訪れました。
甘い香りが漂う風光明媚な街
キンモクセイの世界有数の産地のひとつが、中国南部の桂林市。水墨画のような美しいカルスト地形が有名で、観光地としても人気が高い風光明媚な街です。 1940年代から香料産業が盛んになり、「桂林のキンモクセイ」といえば、香料業界からブランド産地として扱われるほど。今回はその桂林を訪れ、キンモクセイの魅力を探ってきました。 桂林の「桂」は、モクセイ科の植物を意味します。つまり、「桂林」とは、「フォレスト・オスマンサス」、キンモクセイの森のこと。 市内の道路には40~50万本ともいわれるキンモクセイが植えられ、秋の開花シーズンには、街中に甘い香りが漂います。
キンモクセイ
主に香料に使用されるクリーム色のキンモクセイで、フルーティーでクリーミー、厚みのある香りが特徴的なゴールデン
(金桂:Osmanthus fragrans var. thunbergii)と、日本でもなじみのあるオレンジや赤のキンモクセイで、ゴールデンに比べて柔らかい、フローラル系の香りのレッド(赤桂:
Osmanthus fragrans var. aurantiacus)などがあります。
フレグランスの世界では、キンモクセイは「フローラル」ではなく、「フルーティー」に分類されます。それは「ラクトン」という、甘くクリーミーな香気成分を含んでいるから。ラクトンはピーチやアプリコットなどの特徴成分でもあるため、フルーツ的な香気にも捉えられます。他の花や柑橘系、ウッディな素材との相性もよく、様々な香気成分とブレンドしやすいのも特長。こんな香りをまとう女性は、どこか柔和で温かいイメージ。ご近所のかわいらしい「姑娘(クーニャン)」といった素朴な女性を連想します。そしてこの香りは持ちが良い。じんわり、じっくりと香る様は、落ち着いた秋の香りであることの表れのようです。
今も昔もアジアの手仕事が息づく場所
市内から車を2時間ほど走らせ、湖南省近くの紹水へ。ここは立派なキンモクセイの木が群生するキンモクセイの山があります。湿度が低く、寒暖差が大きいこの土地の気候がキンモクセイの発育には向いているそう。花の収穫は開花が見られる10月ごろから開始。
キンモクセイの天然香料ができるまで
ここでは昔ながらの手仕事が今もしっかりと息づいています。その様子に、キンモクセイの懐かしいイメージがぴたりと重なるような気がしました。
- 木を揺らして花を採取し、不要な枝葉を取り除く意外と大きいキンモクセイの木。枝を竹の棒でゆすって、花をシートに落とします。その後、枝や葉など、採取した花に混じった不要物を取り除きます。小さな花をつぶさないようにすべて目視、手作業で丁寧に行います。
- 香りを保つため花を食塩水に漬け込みます。食塩水に漬ける事で、半年間はフレッシュな香りを保持したまま原料貯蔵できます。
- 抽出・蒸留する分の花を食塩水から取り出し、手作業で不要物を取り除きます。この時点ではあまり香らず、茶殻のよう。香りを抽出します。
- 昔ながらの手法で採取、貯蔵された花々は、こうした新しい技術によって加工され、世界中に輸出されます。
世界中のフレグランス・香水の中でも確固たる地位を築く「オスマンサス香調」の故郷が、意外にもここ、中国であったことに驚きました。おそらくキンモクセイの懐古的なイメージは、アジアという場所に紐づいたものなのかもしれません。どこか日本の風景にも似た、のどかで健やかなアジアの地が、キンモクセイの端正な香りを発信している。そうしたことにある種の感慨深さを覚え、この花をいっそう身近に感じられた旅でした。