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レモン

2018.03.31 TEXT by Keiichiro Tsuda (Perfumer)
レモン

少し俗っぽい表現ですが、レモンは「初恋」や「ファーストキス」の香りと言われます。
そんな強酸性を感じるものだろうか...??と思うのですが、若さを象徴する爽やかさと青さ、
完熟した甘さには到達することがない、瞬きの甘酸っぱさを比喩させた果実と香りだからなのでしょう。


レモン(Citrus limon)の木の原産は意外に中国南東部だと言われ、ペルシャ・中東を経由して、
12世紀に十字軍の帰還と共にヨーロッパに持ち込まれる経緯で、その後世界中に広まったと言われます。
食品としての用途は様々、香り付けや酸味付け、臭い消し、消毒、ビタミン補給などなど。
料理、飲料、スイーツにまで広く使用される果実です。
化粧品、洗浄料、ハウスボールド品などでも清潔感、爽快感、新鮮味を実感するシトラスとして使われます。


フレグランス(香水)の中でも、前述した要素と類似して活用されますが、少し角度が違います。
レモンを含むシトラス全般は、アコードの中のトップノートを担います。
その為シトラスの役割は、ブレンドされた香りの第一印象と言えるわけです。
以前ベルガモットのコラムにも書きましたが、一括りにシトラス(柑橘)と言っても、種類によって
その印象が微妙に違います。レモンのトップノートに何を求めるか...
レモンには"若さ"や"明るさ""刹那感"だと捉えています。

こんな情景を思い浮かべてブレンド(調合)してみるとします。
「海沿い賑やかな街並み」
「朝日が差し込む新緑の風景」
「涼やかにスプリンクラーが回っている夏の庭」
ここでオレンジスイートやマンダリンをトップに使うと、暑苦しく甘すぎる感じはしませんか?
またベルガモットや柚子だと、やけにメローで哀愁が漂よわせてしまうような気がします。
どちらかというと、グレープフルーツやライムの方が近いんですが、グレープフルーツよりもう少し
テンションの高さが欲しく、ライムほどクールに徹し過ぎない。
となると、この場合のトップノートのチョイスは、やっぱりレモンがいいんじゃないかと思うのです。
香り全体に甘酸っぱさ(刹那感)を与える。ゆえにそれは後々ノスタルジーに結びつく方程式となります。


     


昔読んだ詩集、高村光太郎の智恵子抄の1編「檸檬(レモン)哀歌」を思い出します。
高村光太郎の愛妻、智恵子の死の床の情景を書いていて、なぜ死をテーマにしているのに、こんなに初々しさと
清潔感があるのか、死という終わりを書いているのに、何かが始まっているように感じるのか。
終わりは始まりと背中合わせ、だからその一瞬の狭間が美しく、懐かしく映るんだと、
当時ほんわりとした感情に取り巻かれたのを覚えています。


終わりやお別れのストーリーがたくさんあり、瞬きの甘酸っぱさと若さで溢れた3月。
でもそれはノスタルジーという形で、ずっと残っていきますね。
さあ、新しい4月が始まります。

  

 

●レモンの注意点
レモンをはじめ柑橘精油には少し肌刺激があります。また光毒性(フロクマリン)も含有していますので、
トリートメントオイルや、手作り化粧品に添加する際は極微量から試しましょう。またフロクマリンフリー
タイプのレモンを使用してください。

●レモンのブレンド注意点
柑橘、ハーブとの相性は抜群です。ただフローラルや甘いバルサム類などと合わせると
レモンの酸味が際立ち、全体が鼻を突くようなツーンとした香りになってしまいます。
ミドル・ベースとの組み合わせによって、こちらもレモンの配合は少量から試してみてください。


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