少し俗っぽい表現ですが、レモンは「初恋」や「ファーストキス」の香りと言われます。
そんな強酸性を感じるものだろうか...??と思うのですが、若さを象徴する爽やかさと青さ、
完熟した甘さには到達することがない、瞬きの甘酸っぱさを比喩させた果実と香りだからなのでしょう。
レモン(Citrus limon)の木の原産は意外に中国南東部だと言われ、ペルシャ・中東を経由して、
12世紀に十字軍の帰還と共にヨーロッパに持ち込まれる経緯で、その後世界中に広まったと言われます。
食品としての用途は様々、香り付けや酸味付け、臭い消し、消毒、ビタミン補給などなど。
料理、飲料、スイーツにまで広く使用される果実です。
化粧品、洗浄料、ハウスボールド品などでも清潔感、爽快感、新鮮味を実感するシトラスとして使われます。
フレグランス(香水)の中でも、前述した要素と類似して活用されますが、少し角度が違います。
レモンを含むシトラス全般は、アコードの中のトップノートを担います。
その為シトラスの役割は、ブレンドされた香りの第一印象と言えるわけです。
以前ベルガモットのコラムにも書きましたが、一括りにシトラス(柑橘)と言っても、種類によって
その印象が微妙に違います。レモンのトップノートに何を求めるか...
レモンには"若さ"や"明るさ""刹那感"だと捉えています。
こんな情景を思い浮かべてブレンド(調合)してみるとします。
「海沿い賑やかな街並み」
「朝日が差し込む新緑の風景」
「涼やかにスプリンクラーが回っている夏の庭」
ここでオレンジスイートやマンダリンをトップに使うと、暑苦しく甘すぎる感じはしませんか?
またベルガモットや柚子だと、やけにメローで哀愁が漂よわせてしまうような気がします。
どちらかというと、グレープフルーツやライムの方が近いんですが、グレープフルーツよりもう少し
テンションの高さが欲しく、ライムほどクールに徹し過ぎない。
となると、この場合のトップノートのチョイスは、やっぱりレモンがいいんじゃないかと思うのです。
香り全体に甘酸っぱさ(刹那感)を与える。ゆえにそれは後々ノスタルジーに結びつく方程式となります。
昔読んだ詩集、高村光太郎の智恵子抄の1編「檸檬(レモン)哀歌」を思い出します。
高村光太郎の愛妻、智恵子の死の床の情景を書いていて、なぜ死をテーマにしているのに、こんなに初々しさと
清潔感があるのか、死という終わりを書いているのに、何かが始まっているように感じるのか。
終わりは始まりと背中合わせ、だからその一瞬の狭間が美しく、懐かしく映るんだと、
当時ほんわりとした感情に取り巻かれたのを覚えています。
終わりやお別れのストーリーがたくさんあり、瞬きの甘酸っぱさと若さで溢れた3月。
でもそれはノスタルジーという形で、ずっと残っていきますね。
さあ、新しい4月が始まります。
●レモンの注意点
レモンをはじめ柑橘精油には少し肌刺激があります。また光毒性(フロクマリン)も含有していますので、
トリートメントオイルや、手作り化粧品に添加する際は極微量から試しましょう。またフロクマリンフリー
タイプのレモンを使用してください。
●レモンのブレンド注意点
柑橘、ハーブとの相性は抜群です。ただフローラルや甘いバルサム類などと合わせると
レモンの酸味が際立ち、全体が鼻を突くようなツーンとした香りになってしまいます。
ミドル・ベースとの組み合わせによって、こちらもレモンの配合は少量から試してみてください。
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