生活の木ライブラリー

MENU
アロマブレンドラボラトリー エッセンシャルオイル

トンカビーンズ

2017.02.28 TEXT by Keiichiro Tsuda (Perfumer)
トンカビーンズ

お花見シーズンが目前になり、厚手のコートを着ずに外を歩けるような季節に差し掛かると、春に草花の香りが生活の随処に感じます。
洗濯物を干す休日、駅のホームで電車を待つ時、車のウィンドウを開けると流れ込む風にも、香りが騒がしいほど色彩力を増し、その実態よりも先に、
香りを風に乗せて存在を広範囲に主張する春の植物たち。

ちょうど昨年の4月ある夜のこと、暗い住宅街を気まぐれに歩く帰路で、とある香りが不意に飛び込んできました。
それは丸く角のない紅潮した甘みで、パウダリー。
ほんの少し砂糖を温めたような鼻を擽る空気が、緩く温度のない風に乗って辺りを取り巻きました。
"ん?桜餅?"と思い、周辺を見回すと、古いお屋敷の塀からはみ出す木の枝に、丸くぽってりとした手鞠のような八重桜が、いくつもいくつも暗闇に、たおやかに咲いていました。
通常桜の木からは、そんなにくっきりとした甘い桜の芳香を感じることは少ないのですが、その日は日中がとても暑かったこともあるのか、最後の力を振り絞るようにして咲いていた桜や桜葉に含まれる成分が飽和し、香りを漂わせていたのでしょう。

干菓子様で粉っぽい甘さの正体は、クマリン(Coumarin:ラクトン類)という成分。桜餅を最初の一口食べたときに広がるあの特有の香りです。
昔から香水の系統の1つでもある〝フゼア【Fougere】"(男性香水の代表)のアコードを組む上で、重宝される香気成分としても知られます。
クマリンは広く天然植物の中にも存在し、中でも多く含んだ植物素材に「トンカビーンズ」があります。
トンカビーンズはマメ科の植物(Dipteryx odorata)で、まさにその豆から溶剤抽出で採られる唯一無二の香りです。
硬く黒い豆からは想像がつかない甘い香りに驚かされます。
トンカビーンズを付与すると、一遍にパウダリーな甘さを纏い、紗が掛かります。
昂った香気を丸くして、保留生と恥じらいを持たせてくれる。
まるで舞妓さんがお化粧の最後におしろいを叩くような役割をもって。


一寸先の季節を待ちわびて、足早に桜を感じさせてくれるトンカビーンズ。

もうすぐ、春ですね。


【トンカビーンズの使い方】
トンカビーンズは単品では成立しづらいもの。ぜひその存在を実感するために、まず主役の香りを決めてそこに添えるイメージで
試してみてください。例えば、まずラベンダーだけを嗅ぐ、次にラベンダーとトンカビーンズを合わせて嗅いでみる。
そうするといつものラベンダーが、少しおめかしした印象になります。


トンカビーンズの購入はこちら

PAGE TOP